『立花はこのまま乗ってて。
 櫂さんに挨拶してくるから』


大学に着いたら、
シートベルトを外した瀬木さんは
車から降りると
お兄ちゃんに頭を下げて何か話してた


あれ?……彩は?……って


ええっ!?


隣の車の助手席から
ひょっこり顔を出す彼女に
思わず口が開いた


何でお兄ちゃんの車に乗ってるの!?


ガチャ


『お待たせ。
 それじゃあ長野まで頼むな。』


「えっ!?……
 車2台で行くんですか!?」


『櫂さんも立花の友達も
 数日しかいられないし、
 帰りが困るだろ?』


それはそうだけど‥‥


てっきり私の頭の中では
一台に4人乗りこんで
わいわい仲良く行く
プランがたってたから
まさかの瀬木さんと2人きりなんて‥‥



長野まで約3時間。
この狭い空間に2人きり


心臓持つかな……‥


それでも無情に車は発車し、
控え目に彩に手を振る


静かな車内


緊張がバレないように
窓の外の景色を眺めたり
そわそわと落ち着きのない私



先輩と初めて会った時も
なんてカッコいいんだろうって
思ったけど、
大人びた姿は更に増して見える


この6年で私はあの頃よりは
逞しく生きていることが
大きく変われたことだけど、
先輩はどうだったのだろう‥‥


「あの‥‥‥‥
 瀬木さんはいつから
 本を書き始めたんですか?」


ずっと聞いてみたかった


あの時の先輩は高校3年生だったし、
進路とかいつ決めてたんだろう‥‥



『‥‥‥知りたい?』


「はい……」


先輩のことなら
どんなことでも知りたい。


あのままあの場所にいれたなら、
卒業していく先輩と同じ場所で
1年は過ごせたのに
それが出来なかったから




『6年前』


えっ?


思わず隣を見れば
サングラス越しに目が合ってしまう


「こ、高校生って…ことですよね。
 ‥‥…スゴいですね。」



『‥‥始めた動機は不純だけどな。』



てっきり卒業してからだと
思っていたのに、
私と出会ってた頃には
本を書くって決めてたってこと?


そんな素敵な夢を
持っていた人の近くで、
よく同じ本なんか
生意気に読んでたなと思うと
恥ずかしさが増していく



「‥‥‥‥瀬木さん」


『なに?』




「‥あの‥‥瀬木さんは
 恋人とかいないんですか?」