数日後、本当にバイトを
 全て辞めさせられたので、
 お兄ちゃんに言われて
 大学から歩いて10分ほどの
場所にある立派な建物に来ていた


 ちょっと待って‥‥‥
 ほんとに…………ここなの?


 見るからに
 高級マンションなその建物に
 唾をごくんと飲み込み、
 メールで送られて来た
 地図やマンション名を再度確かめる。


 やっぱり住所も
 マンション名もここで間違いない‥


 世の中には必至で働いて
 勉強しながら生活をしてる人が
 ここにいるって言うのに、
 こんなすごいところに
 当たり前に住む人もいるなんて
 悲しくなってしまう。


 でも文句なんて言ってられない!
 今は生きるためにやるしかないのだ!


 でないと家賃滞納‥‥
 水道光熱費は勿論払えず、
 おまけにお小遣いもなし。
 食べるものもなくて
 強制退去まっしぐらか天に
 召されるかもしれない。


 恐るおそる息を呑み込み
 マンションのエントランスに入れば、
 ホテルかと思うほどの
 広々とした空間を見渡した


 これってもしかしなくても
 オートロックだよね?


 完全に場違いな私だったけど、
 慣れない機械に震える手を伸ばして、
 ゆっくりと部屋番号を押した


「フゥ‥‥‥」



『‥‥‥‥はい 』


ドクン


 暫くしてから聞こえた低い声に驚いて
 緊張感が一気に増し背筋が伸びた


 いつでも行けばだいたい居るからと
 お兄ちゃんは言っていたけど、
 よく考えたら面接なのにアポもなしで 突然来てしまったことに今更気付く


 生活費のこともだけど、
 お兄ちゃんにこれ以上
 心配かけたくないから
 一日でも早く働きたい衝動で
 考えずに来てしまった



「あ、あの‥‥アルバイトの件で
 来ました立花です。」


『……‥立花?……ああ……どうぞ』



「…あ、は、はい。」



 お兄ちゃんからアルバイトに来る
 私の名前も聞いてなかったのかな?



 応答の仕方に疑問を抱いたが、
 目の前のガラス扉が閉まる前に
 開いた通路に足を踏み入れた