同棲なんかじゃないし‥‥


実際はあの広い部屋の
掃除や料理が大変で
そんなこと考える余裕すらないもん


それに、何より突然依頼される
アシスタントの仕事に
慌てることが多いからまだ慣れない。



「あのね作家さんの
 一冊の本が出来るまでって
 ほんと大変でね‥‥」


『は?何それ……つまんない』



つまんないって言われても‥
本当のことだもん


時々見せる知らない顔の一つひとつや、
冷たいかと思えば優しかったり、
一言フォローいれてくれたりと、
気持ちは複雑な状態だけどね‥‥



ブーブーブー

ん?


ポケットで響くスマホのバイブ音に
なんとなく嫌な予感がした私は、
アイスティーを啜る彩を他所に
恐るおそるケータイを開いた


「………‥‥」


『何?また呼び出し?』


パチンとスマホを閉じれば
飲みかけのレモネードを
私も一気に啜った


「うん、ごめん。また来週ね」



今日は仕事入れないって言ったのに、
届いたメールに溜め息を吐きつつも
お使いに出掛けることにした。


突然のメールに
最初はいちいち驚いていたけど、
それも何回か続くと驚かないもので
人間の馴れって恐ろしいと
つくづく思う。



『ありがとうございました』



紙袋を抱えてマンションへと急ぐのは、
雇い主へ渡すためだけなのだけど、
何処かで早く顔が見たいなんて
あさましい気持ちも
あるからかもしれない。


コピー用紙や
ペンなど近場で買えるものなら
ついでで買えるけれど、
特定の情報やものについて調べたり、
資料を集めたりするのには
まだ慣れない。


作家たるもの拘りも強いし、
物語を作る上での
資料集めは大変らしく、
現場に行けない時は、
アシスタント係の私の仕事らしい。



今のこの時代は、
ネットで色々調べられるのに
瀬木さんは誤った必要のない
情報はいらないらしく
調べたい時は本や現場で見たものを
写真に撮ったり、
実際買ったりしながら調べていた。


チリンと鍵の音を鳴らして
玄関の鍵を開ければ、
涼しい風に走ってきた
体が冷やされていく




あれ?
お客様かな‥‥



ホッとするのも束の間
見慣れないパンプスと革靴が目に入り
靴の向きを変えて綺麗に揃える。



買ってきたものは靴を見て
なんとなく納得できるけど、
今日は誰か来るなんて
一言も言ってなかったから、
入っていいか不安になる。



ガチャ