なんでお兄ちゃんが
隼人君が来れないことを言うの?


「お兄ちゃん変だよ?……なに?
 何かあったの?」


昨日エレベーターで
また明日って約束した。来れない日は
ちゃんと前日に伝えてくれていたのに?


「お兄ちゃん!!」










『隼人が昨日‥‥‥
 弥生って子に刺された。』








力を込めてつかんでいた
お兄ちゃんの腕から
手が力なく落ちていく



刺された?‥‥‥‥隼人‥君‥‥が?




『落ち着いて聞けよ?
 昨日日和が発作が起きた後
 話をつけて帰ったと思ったのに、
 駐車場で待ち伏せてた
 その子に刺されたんだ。』




嘘‥‥‥‥‥弥生ちゃん‥‥
なんで……そんなこと……に?


好きな人に‥‥どうしてそんな
おそろしい事が出来るの?‥


私にしたことは、嫉妬や妬みからの
行為なのは分かる


でも瀬木さんは‥‥‥‥‥‥何故?


やっと記憶が戻ったのに‥‥


やっとただいまって言えるのに‥‥



「……隼人君は?隼人君……どこ!?」


『日和、落ち着け』


「やだ!……会わせてよ!!
 ……お願いだから……早く……!!」


『日和!!』


パチン


頬を軽く叩かれた後涙が溢れて喚く
私の車イスを押すと
エレベーターに乗らされた


瀬木さんのことよりも
記憶が戻って自分のことしか
考えてなかったなんて最低だ………
隼人君は私の側にずっといてくれたのに




『ここだ。手術は成功したけど
 まだ意識は戻ってない‥‥』



ドクン



『一人で入れるな?』


ガラッ


お兄ちゃんが
ドアを開けてくれたそこに
自分の震える手で車イスを押していく



薬品の香りと
規則的な機械音が耳に届くなか、
ゆっくりとベッドに近付き
カーテンをそっと開けた



「……‥‥‥‥‥‥ツッッ…」


ベッドに横たわり
瞳を閉じたままの隼人くんが
静かに息をしてる



会えた時は笑顔で会いたかったのに
溢れる涙を手で拭い
キレイな手を優しく握った。



「隼人く…ごめんね。
 苦しくて痛い思いさせて……。
 ずっと側にいて待っててくれてたの
 知ってるよ‥私……私ね、
 記憶が戻ったんだよ?
 瀬木さんの本を見たら
 思い出したんだよ‥ヒック
 ………大好きな‥‥本で
 また‥‥‥‥‥繋がったんだよ。」



長くて綺麗な指に
涙を堪えて唇を落とす。