瀬木 遥 side


見送ってくれた日和が
寂しそうな顔をした瞬間、
このまま抱き締めて
連れて帰りたいなんて思ってしまった


もう一度この腕に抱き締めて
何度もキスしたい‥‥


そして早くこの手に抱きたい


不謹慎にも日和のあの顔を見ると
抑えが効かなくなる
それぐらい頭の中も心の中も
日和のことで頭がいっぱいだ‥




『あれ?櫂さん……どうしたんですか
 面会時間もう終わって』


『見ろ』


えっ?


エレベーターの出口にいた櫂さんが
俺に向かって差し出した
スマホの画面に驚き
吐き気が出そうになり固まった


まさか………


受け取ってそれを確かめれば
そこにはスゴい数のメールが届いていた


『櫂さん……これ‥‥』


その内容を更に見ていくたびに
気持ち悪くなった俺は
口元を手で覆ってその場に座り込む


『おい!大丈夫かよ!?』


『はい、すみませ………それよりも』


『ああ、早くしないと危ないぞ。
 暗証番号とくのに時間かかって
 やっと開けたら想像以上に
 すごいことになってた』


その時
櫂さんのスマホが鳴り響いて
電話に出てしまったので、
もう一度画面を確認した


自分が思ってる以上の事が
日和の側で起こっていたことに
冷や汗が背中を流れる。


『はい、分かりました!
 ええ下にいますから。
 ………おい、隼人!日和が倒れた』


えっ?


さっきまであんなに
落ち着いていた彼女と別れて
まだ10分足らずなのに?


腕を掴まれ立ち上がらされると
櫂さんに思いっきり頬を叩かれる


『しっかりしろ。
 おまえが守りたいのは誰だよ?
 日和のことは大丈夫だから行け。
 さっき車のとこに居たの見たから。』


『…はい…櫂さん………
 立花をお願いします』



2度も櫂さんに
目を覚ましてもらった俺は
息を整えると病院を飛び出した


正直倒れたなんて聞かされたら
日和の側に駆けつけたい‥‥


さっき自分が初めて泣けたのは
彼女がいたからこそだから‥


あの本を一緒に書いて
やっとやっと完成したのに、
一番に読んでほしい彼女には
負担になりとても読ませられなかった


そう思ったのに、あの本を読みたいと
俺の頭を震える手で抱き締めた
小さな彼女に涙が出た。


今度は俺が守るから‥‥‥




『‥‥はぁ‥はぁ‥‥
 あんた‥ここでなにしてんの?』


俺の車の影に見えた人物が
待ってたかのように嬉しそうに
笑顔を見せて近付いてくる



『瀬木さんだ‥‥やっと会えたね。
 こんなとこで待ち伏せして
 すみません。でも!会いたくて』


顔を赤くして俯く相手に
息を落ち着かせると
近付き思い切り両肩を掴んでやった


『痛っ!瀬木さ………?』


『なぁ、あんたさ‥‥
 バレてないと思ってるかも
 しれないけど
 そういうとこ昔と変わってないから』


冷めた笑顔を向ければ
相手の肩が小さく震えた


『な‥‥なんの‥こと……』


『中学の時に
 ちゃんと返事してる筈なんだけど?』


相手の肩から手を離して
さっき櫂さんから預かった
スマホを操作して画面を見せたら、
暗い中でも相手の
血の気がひいたのが分かった


俺が15歳の時に
告白してきた相手がこの子だった。



当時は13歳で童顔だったから
うちに来た時は気づけなかったけど、
家に戻ってきた時に見せた顔で
なんとなくそうかなって思い出した。



告白を断ってからもかなりしつこくて、
ポストに何度も入れられる手紙や
夜遅く家まで来たときにはさすがに
警察に通報したことがあった



日和とこの子が大学で知り合ったのは
ほんとに偶然だったと思う。


俺は名前を変えて作家になってたから
偶然マンションに来たときに
尾田 隼人にまた会えたのが
こういう事を招いたのかもしれない



『あ………あの私は好きで……
 ずっと好きで‥』


『は?なに?俺のことが好きだから
 こういう悪質なことして
 誰かを傷つけるのが正論?』


櫂さんから預かっていた
日和のスマホを相手に突きつける



"別れろ"

"瀬木さんに近付くな"

"しぶといんだよ、ブス"


そして極め付けはさっき
送られたばかりのこのメール



〝言うこと聞かないと
 また今から殺しに行くよ?〟


これを見て
立花を殺しに来るかも知れないと
櫂さんがさっき知らせてくれた。
そしたら案の定ここに居た訳だ。



『お前さ‥‥
 日和を階段から突き落とした?』


『あ………瀬木さ‥‥‥
 そんなこと‥‥』



『日和がどんな思いしてるのか
 知ってる?
 今から‥‥あんたにも俺が
 同じことしてやろうか!!?』


女だろうと関係ない


昔からストーカーし続けた時に
一度は行為がなくなったから
許そうとしたのに、
今回のことはとても許せることじゃない



相手の胸ぐらを力強く掴んで
引き上げれば苦しそうに顔を歪ませる



『あんたが俺のことをなんで
 好きなのか知らないし、興味もない。
 でもあんたのやったことは
 立派な犯罪だ。
 罪はちゃんと償え。そして俺と日和の
 目の前に2度と現れるな!』



思いきり体を震わせた
彼女を離すと同時に
警察のサイレンが聞こえてきた。
櫂さんがスマホのことで
念のため呼んでくれてたのなら
好都合だ。



良かった……もうこれで日和が
怯えることもないし傷付けるものはない



あとは警察が
ちゃんとしてくれるから大丈‥‥‥


ドンッ!!


えっ?


何が起こったか分からずに
ゆっくりと下を向けば
腹部に感じる違和感に相手を突き飛ばす



『ツッ!!……なにし‥て…』



『あ‥‥だって‥‥
 待っても待っても手に入らない‥‥
 どうして‥‥だって‥‥
 こんなに好きなのに‥‥‥』






『おい!!!君たち!
 何を………おい!!そっち押さえろ。
 ……おい、君!!大丈夫か!?』




『……に会いに……行かなきゃ』



『しっかりしろ
 誰か病院の人呼んでこい!!』



日和に会いに行かないと………
もう大丈夫だよって
早く抱き締めてあげたいから………


瀬木 side 終