『はい、どうぞ‥‥』


俯いていた私の目の前に
差し出された真っ白な本を
傷付けないように両手で受け取る



『先生……?』

『隼人……どういうことだ?』


『立花に読んでもらった後なら
 出版でもなんでもしろ……』


私の頭に優しい手を
触れさせた瀬木さんは、
高城さんたちにそう言った。


手の中にある真っ白な本に
金と銀の刺繍で描かれた題名を
そっと指でなぞる


「(巡り会う……か)」


瀬木さんの本が読める嬉しさで
胸の中にその本を抱き抱える



奥では物凄く嬉しそうな2人と
瀬木さんが何か言い合っていたけど、
私は嬉しくて暫く
そのままそれを抱き締めた


夜8時


今日の勉強が出来なかった私に、
ギリギリまで勉強を教えてくれた
瀬木さんとお別れの時間になり、
エレベーター前まで
お見送りをする事にした。


『立花‥‥無理して遅くまで読んだら
 駄目だからね。
 寝不足でリハビリ出来ないと
 俺が叱られるから』


「はい。瀬木さんもちゃんと寝てね?
 あとコーヒー飲みすぎなので
 今日はもう飲んじゃ駄目だよ?」


『ん‥‥おやすみ。また明日』


「おやすなさい」


なんとなく離れるのが寂しかったけど、
笑顔で手を振り見送った後
歯磨きをしてベッドに座った


瀬木さんはああ言ったけど、
読みたくて仕方がない私は
ベッドにもたれて本を手にし
表紙を見つめた


「(瀬木……遥)」


瀬木さんの本‥‥
それだけで他の本よりも
何故か愛しさが溢れる


名前が彫られたそこを
指でなぞったあと
私はゆっくりと本を開いた



ドクン……!!

ズキッ!!


「……なに?‥‥‥‥これ」


表紙を開いたそこにあった一面の写真。
それを見ただけで、頭を鈍器で
殴られたような感覚になる



沢山の白い木が満月に照らされて
緑の絨毯に美しい影を
落としているだけなのに‥‥‥


心臓の音が耳に届くほど
鳴っているのがわかる……
頭が割れそうで耳まで痛い



「はぁ……はぁ」


呼吸を落ち着かせようと
ゆっくりと深呼吸をしていると
写真の下に書かれている言葉を見つけて
また苦しさが増す


苦し…………
どうしちゃったの?


今までと全然違う……


耳が痛いくらい激しい耳鳴りと
殴られ続けるような痛みに
思わず吐きそうな感覚だ




"届きそうで届かない。
いつの日か2つの影が
重なりあう日が訪れるなら
辛抱強くあなたを待ちましょう"


ドクン


「………知ってる………
 私これを……知ってる……なんで?」


震える手から本が落ちれば、
巻末にあるもう一枚の写真が
私をもっと苦しめた


この景色………
この感じ…………
駄目だ‥‥‥頭が痛い‥‥‥


胸が一気に苦しくなって
震える手で私はナースコールの
ボタンを押した


………‥‥‥‥‥‥先‥‥輩