わぁ………


改めて目の前に置かれたものを見ると、
瀬木さんが本当に作家さん
なんだって気付かされる


『でもね‥‥
 先生この本は出さないの
 一点張りで……』


えっ?


隣の高城さんが
寂しそうな顔をして眉を下げる。
せっかく書いたのにどうして‥‥



『この作品は瀬木先生の
 今までの中でも最高にいい作品。
 だからこそずっと
 お願いしてるんだけどね』


ガラッ


『お、日和ちゃん帰ってたんだ。
 上手そうじゃん俺のも』


『あんたのはないから……
 それよりどうだった?』


『駄目。アイツ頑固だから』


部屋に戻ってこないのが
心配になった私は話始めた
2人をよそにそっと部屋を出た



私が誰かのためになにかしたいなんて
思ったのは初めて……


でも今、
自分の心は瀬木さんを探してる。
気持ちがはっきりしてるから
体が自然と動くんだと思う


いた‥‥‥


病棟の待ち合い室の椅子に腰掛けて
瞳を閉じているキレイな人は、
遠くからでも落ち込んでるのが分かる



「瀬木さん……」


私の声に瞳を開けると
驚いた顔を見せながらも微笑んでくれた


「瀬木さん‥‥私には力抜いて
 泣いていいって言ったのに、
 そんな悲しそうな顔をして
 笑うのはダメだよ?」


記憶のない私が偉そうに
言うことじゃないのかもしれない


でも………
瀬木さんが悲しんでるってすごく伝わる



「わ、私のここで良ければ
 もたれてもいいですよ?
 ……瀬木さんよりも小さいから
 泣いても隠せませんけど……」


自分でも何を言ってるか
分からなくなる‥‥
けどもう止まらなかった。



『ありがとう‥‥』


それ以上私は何も出来なかったけど
瀬木さんは私の肩にその小さな
頭を預けてくれたのでそっと抱き締めた


「瀬木さん……
 あの本出版しないなら
 私が読んじゃ駄目?」


『いいよ……立花なら』


えっ?


それ以上何も瀬木さんは
話さなかったけど、
肩に触れた場所が冷たくなるのを感じ、
つられて泣きそうになるのを堪えた



部屋に戻ると
高城さんたちが私たちを見て
辛そうに少しだけ笑った。
瀬木さんが心配だったんだよね……


車イスをベッドまで
押してくれた瀬木さんに
お礼を言おうとしたら、
私の体をあっという間に抱き抱えた


「せ、瀬木さん!!」


『ん?なに?あ……足痛む?』


トクン……


抱きしめたり
抱きしめられたりする時とは
全く違う緊張感に体が熱くなる


優しくおろされたベッドに
足が痛くないように
最後まで手を添えてくれた