次の日から瀬木さんは
毎日午後になると病室にやって来て
面会時間ギリギリまで勉強を教える傍ら
そこで執筆の仕事をしていた


なのでリハビリの時間を
瀬木さんに合わせて
午後から午前にしてもらえたのだ。


「クッ……はぁ……ツッ」


歩行訓練はやっぱりツラい


あれから毎日リハビリに通うけど、
なかなか早く歩けるように
ならないから、
本当に良くなってるのか不安だ‥‥



『立花さん少し休憩しよう』


「‥‥‥はい、すみません。」


乱れた呼吸を整えるため
マットに横たわると、
情けない表情を隠すために
タオルを顔に乗せた


やることがあるから頑張れる。
自分を見失わずにいられるから
今は負けたくないな‥‥



『立花』


「えっ?‥あ……瀬木さん」


タオルを捲った私の視線に
瀬木さんがうつりニコリと笑った



「どうしたの?まだ早いのに……」


『ん‥‥‥頑張ってるから
 差し入れ持ってきた』


そう言って手にぶら下がった
ケーキらしき箱を
見つけて勢いよく起き上がる


「やった!甘いもの好きなんです!!」


『フッ‥‥知ってる。
 まだリハビリやるんだろ?』


「うん……力つけないと」


『部屋で仕事してるから
 後でゆっくりおいで。』


こんなリハビリ室にまで
来てくれるなんて本当に優しい人……



『立花さんの彼?』


「そんな、ち、違いますよ。
 兄の友達ですから!」


本当は作家さんだよって言いたいけど
多分迷惑がかかることが
わかるからそう伝え、
私はリハビリの痛みに
耐えながらまたなんとか続けた。


沢山の人に迷惑かけてる分
早く退院するのが目標だから…


ガラッ


「ただいま」


『おかえり』


病室だけど、
誰かにただいまとか言えることが
最近嬉しいことの一つだ



いつの間にか立花さんから立花に
呼び方が変わっていたけど
私は全く嫌じゃなく
むしろ何故かそっちの方が
しっくりする気さえしていた。


看護師さんに汗ベタベタの髪の毛を
洗って貰った私は
洗濯を終えてワンピースに着替えてから
病室へ戻った。



仕事中は私が話しかけない限り
黙ってパソコンに向かっている
時間が多いから邪魔したくない‥‥


本当にこの部屋で
仕事が出来ているのかな?
私が邪魔になっていないか
とても不安になってしまう‥‥


昼食を食べて少し休憩してから
いつもの勉強が始まった。
この時間になると仕事の手を止めて
私の隣でみっちり教えてくれるから
私も真剣に頑張った


自分を知るチャンス……
苦手なものと得意なものは
やり始めてすぐに分かったし、
立花日和の事が少しずつわかり始めた。