瀬木さんの視線に
どうしてか恥ずかしくなり
ベッドの上で小さく頷く


作家さんの仕事は
あまりよく分からないけど
本を書く人だから大変そうなのは
あのクマをみてなんとなく感じられる


『それでだ!
 この病室はちょっと狭いから
 大きな部屋に移れば
 ソファやデスクにテーブルもある。
 日和が頑張るなら
 そこでやってみないか?』


「えっ!?‥でも病院代が‥‥‥」


『大丈夫。日和は何にも考えずに
 早く退院するんだ。
 友達と大学来たいんだろ?』


彩と目が合うと笑顔で頷いてくれたので
私も頷いてお兄ちゃんを見上げた


立ち止まりたくないと
言ったこんな私に、
手を差し伸べてくれる人が
思ってるより沢山いたことに涙が出る





「ここ?」


1つ上の階に移動して
病室の扉は今いたところと同じような
感じだったけど、
入ってからびっくりした


「(………広い。
 大きい部屋って言ってたけど
 ホテルみたい!?)」


大きなベッドの横に
3人は座れるだろう
ソファとテーブルがあり
反対側にはデスクと椅子


目の前には
応接室のようなソファとテーブル
テレビが置かれている

家具は全て
木目の美しい家具で
本当にホテルのようだった。


勿論、案内された場所に
バストイレも完備されている
完全個室型に
不安になり胸が苦しくなる。


お兄ちゃんああ言ってたけど
本当に大丈夫なのかな‥‥‥


あの時はみんなの為にも
自分の為にも頑張ろうって思った


でも………
私はまだ自分が誰なのかが
あまりわかってない。


………早く知りたい


私はどんな高校生だった?
大学はどんな大学に通ってる?


全て思い出せなくても
いつかちゃんとわかる日が
来るといいな……


彩はバイトがあるため帰ってしまい
お兄ちゃんは手続きしてくると言って
行ってしまった。



『疲れさせたからごめん。
 今日はゆっくりするといい。
 また明日来るから』


車椅子に座ったままの私に
優しい手が触れたので
思わずその手を掴んでしまった



『…立花さん…どうした?』


この手………初めて見たときも
細くて綺麗な手だと思ったけど


それだけじゃなくて
私の手を昨日握ってくれた手‥‥そう、
安心させてくれた手だ。


「…あの…私のこと知ってたんですか?
 それなら、あなたにとって
 私はどんな子でした?」


掴んだ手から彼の温かい温度と鼓動が
伝わり私の手も熱を持ち始める