なら昨日あの女の子が呼んでいた
瀬木さんっていう名前は?


はっきりそう呼んでたし
お話もしてたから
この人は瀬木さんだと思ってたのに
頭が混乱する



『隼人はね日和も大好きな本を書いてる
 作家さんなんだよ。』


「えっ!?
 さ、作家さんなんですか?
 ……だからこんなに本を
 沢山持ってたんですね‥‥」



一緒に本を読むだけだったし、
何のお仕事してるかそこまでは
分からなかった。


大切な人のお見舞いに
来てる人っていう感覚だったから。



『立花さん、作家名は瀬木。
 …‥‥‥‥瀬木 遥と言います。』



ドクン


鼓動が何故か動き出す。
2つの名前を聞いただけなのに、
心臓がどうしようもなく早くなり
胸が苦しくなってきた


『日和、どうした?』


「あ、ううん……大丈夫。
 少し驚いただけ‥‥」


呼吸を何回かゆっくりしていたら、
彩が私にお茶を渡してくれた



『日和、提案なんだけど、
 お前勉強そろそろしたいだろ?』


勉強?


確かに‥‥
彩が以前持ってきてくれた
大学1年の問題集も
学校に通えてない状態で
記憶もないから全く解けなかった


「うん、手のギプスも取れたし
 退院まであと1月だから
 やりたいけど、
 私に出来るかなぁ‥‥。」


『それなら大丈夫
 ここに優秀な先生がいるから』


先生………?ってもしかして


『立花さん、
 俺が責任もってゆっくり
 教えるからどうかな?』


『日和、
 隼人は頭がいいからいいぞ?
 教え方も上手いから。』


彼が私に勉強を……?


あれ‥‥‥‥‥‥?
ちょっと待って‥
頭の中にデスクに座ってる私が見えて
この人が横に立っている
光景が見えた気がする



『無理しないでいいよ』



俯いていた顔をあげれば
そばに来ていた彼に
頭をくしゃりと撫でられて
また鼓動がトクンと揺れる


『立花さんが無理なら
 俺はいつまでも待てるから』


いつまでも‥‥待てる………?


どうして会って間もないのに
この人の手と言葉全てに
心がこんなにも動くのだろう



「……お願いします。
 私、戻りたいんです。
 彩と約束したから……」


『日和……』


『ん、分かった。
 それじゃあ頑張ろうね、立花さん』


「はい」


わかった……
この人といると記憶がないけど
それ以上に感じるものがあるんだ。


きっとこの人は私のこと知ってる……
そして私も彼を知ってるはず
何故か不思議とそう思える


『それじゃあ決まりだな。
 隼人は仕事が忙しいから、
 日和に勉強を教えながら
 仕事もしなきゃいけないんだ。
 分かるか?』