『日和?』


「あ、なんでもない。
 今日外で一緒に本を読んだ人がいて
 ……それで久しぶりに」



『ハハッ‥楽しかったか?』


「………うん、また外であの人と
 一緒に読みたいなって思った」



なんとなく誰かと触れあうと
不安で真っ白な世界が
色付けされていく気がするから


お兄ちゃんは、
もう少し私の体調が良くなったら
勉強を教えてくれると約束してくれた。
いつかそこに戻れた時のために
やった方がいいって言ってくれたから。


『日和に会わせたい子が
 外に来てるけどどうする?
 無理ならまた今度でもいいから。』


私に?誰だろう……


「……お兄ちゃんが
 居てくれるならいいよ」


なんとなく知らない人と
部屋で2人きりは
色々な思い出に耐えられなくて
パニックになるのが少し怖い‥


『勿論いるに決まってる。
 じゃあ待ってな。』


本を閉じると
緊張からか両手に力が入る。


あれ‥‥‥?
やっぱり不思議だ


今日外で会ったあの男の人も
初めてだったけど、
よく考えたら不安はなく温かくて
穏やかになれていた。



瞳を閉じれば綺麗な顎のラインと鼻筋、
そして少し切れ長の涼しい瞳が
目に浮かぶ


ガラガラという音にとともに
ドアが開いた先を勇気を出して
ゆっくり見上げた


「(わぁ……綺麗な……女の子だ)」


パーマが緩くかかった
明るめの髪に、スラッとした背丈。
この子もモデルさんみたいだ‥‥


『こんばんは。私の名前は佐伯 彩。
 彩って呼んでね。』


「あや……?」


『うん。今日ね、
 日和に会えるって聞いて
 バイトなんかどうでもよくて
 来ちゃった。‥‥‥まだ傷痛む?』


「あ…ううん…大丈夫。」


『そっか。私ね日和と
 大学で仲良くなったんだ。
 だからまた一緒に通いたいから
 時々ここに来てさ
 暇な日和の話し相手に
 なりたいんだけどどう?』


暇な日和って………


にこにこと話す相手に
嫌とかそういのは全然感じない
むしろこの子も
心が温まるような気がして
体から力が抜けていく



「あの‥‥私って……勉強出来た?」


『うーん‥‥‥出来なかった。』


えっ!?


お兄ちゃんが
入り口のドアにもたれて
口を押さえて笑ってる。
益々これからの勉強が不安だけど、
2人が笑ってるからより安心出来た。



『日和、大丈夫よ。私もだから』


「彩も?」


『うちらは立花先生に
 いつもお喋りしては見つかって、
 日和なんて居眠りして叱られてるよ』


『フッ‥そうだな‥‥お前らは
 不真面目常習犯だよ』


「そんなぁ……」


彼女みたいにまだうまく
笑えないかも知れないけど、
帰った後眠るまでに
いつものような落ち込みがなかった



今日はなんだか
本当に楽しかった……


記憶の殆どが今はないけど、
やっぱりなんとか生きてれば
これからまた出会う人だっている。


待っててくれる人がいるなら
ここでなにもしないでいるなんて
勿体無い。


彩はそれを
教えてくれた気がするから。


たった少しの時間だけど
真っ白なキャンバスに
描かれたあの男性と彩。



色々知りたいけど、焦っても
駄目らしいし取り合えず、
目標が出来たから
それに向かって頑張ろう‥


久しぶりに夜、眠気に襲われて
ぐっすり寝れたのは、心が
温かくなったからかもしれない‥‥