そう言ってその人が
私に見せてくれた本に
何故だか嬉しくなって
久しぶりに笑顔になれた気がする


それ以上その人とは
何も話さなかったけど、
2人で静かに本をお互い捲る音を
聞きながら読み続けた。



でも不思議………


この人の放つ空気が
とても柔らかいからか
どんどん温かい気持ちになってゆく。


『立花さん!
 そろそろ夕食だから戻りますよ』


「えっ?はい……分かりました」


もうそんな時間なんだ‥‥
確かに辺りは暗くなり始めてる。


しおりをそこに挟んで閉じた後、
隣で一緒に読んで下さった方の方を
向いた。


ドクン


彼もこちらをいつの間にか見ていて
何故か心臓が騒いだ気がしたけど
座ったまま笑顔で頭を下げた


「本当にありがとうございました。
 今日初めて外に出れて嬉しいのに
 一緒にこうして読めて
 もっと嬉しかったです。」



『‥‥また一緒に読めるさ。
 …‥‥立花さんまたね。』


えっ?


彼が立ち上がるときに
私の頭にそっと触れた手に
心臓がまた少しだけ
トクンと動いた気がした



『カッコイイ人ね?モデルさんみたい。
 立花さんの知り合い?』


「い、いいえ……………違います」



立花と言ったのは
気のせいだったかもしれない‥‥
でも何故だろう‥‥
知り合いじゃないのに
知ってる人にも思えてしまう



コンコン


『日和、入るぞ』


毎日来なくてもいいのに
必ず来てくれるお兄ちゃんが
今日は大きな袋を抱えて持ってきた


『ご飯は食べれたか?』


「うん、食べたよ。
 それより何を持ってきたの?」



ドサッとサイドテーブルに
置いたそれはとても重そうで
気になった私は左手をついて
上から覗いてみた


「やった!!本だ!!!」


『おう、足りないと思って持ってきた』


「ありがとう、お兄ちゃんのお陰で
 毎日退屈せずに過ごせてるよ。」


私が片手でも取りやすいよう
サイドテーブルに端にそれらを
綺麗に並べてくれると
まるでそこは
小さな図書館のようだった


「これ全部お兄ちゃんの本なの?」


20冊はあるだろう本達は
リハビリ込みで3ヶ月近くの
入院を与えられてしまった私には
じゅうぶんすぎる量だ。


腕は軽い骨折だけど、
大腿骨骨折は大掛かりな
手術だったらしく
リハビリがだいぶ必要とのこと



『これさ、実は、知り合いに本が
 好きなやつがいて借りたんだ』


本が‥好きな人………?


一瞬頭の中にさっきのカッコイイ人が
現れたのは何故だろう?
胸が少し熱くなっている