彼女と少し話をすることになった。落とした物を一緒に探してくれるらしい。だがもう私にはスマホが使えなくなっていた。お金が無いこともそうだが、身分を証明できないだため、契約を切られてしまった。連絡先を聞かれてうっかり「スマホを持っていない」と答えてしまった。
「私の家、来ますか?もっとお話したいですって、うわぁ」
目の前で彼女が躓いてしまった。よろける彼女を支えながら不審に思う。
「大丈夫?ていうか家?はやくない?」
「私の家近いんですよ。無理を言いましたか?」
この間ちょうど家もなくなったところだ。寝る場所もない。そういった意味ではありがたいが、今日あって初めての人の家に上がるのは抵抗がある。しかしこの人に悪意がある訳でもなさそうなこともわかる。諦めた人生だ。今どんなことが起ころうともうどうでもいいのではないだろうか。
「いいえ、大丈夫よ。あなたがいいのならお邪魔しようかしら」
「本当ですか!」
それから雑談しながら私は彼女の家へと向かった。



彼女は不思議な人だ。服装もふわっとしたワンピースを着ていて、ふわふわの肩くらいまでの髪に少し茶色い瞳。私もなぜ今彼女の家にいるのだろうと錯覚するほど不思議な人だ。おまけに若そうな人だ。私は多分並んでいても同じくらいに思われるであろう。表札には藤木と書かれていた。
「今、お茶を入れますね。あ、名乗っていなかったですね。おっちょこちょいです。藤木 優里です。よろしくお願いします」
「私も名乗ってなかったね。明山 美代子よ。よろしくね」
そのまま優里はお茶を入れに行った。戻ってくると不思議そうな顔をしていた。
「美代子って、ちょっと昔っぽい名前じゃないですか?」
私はギクリとした。本当のことを話していいものか。迷った挙句、どうせ今日1日しか付き合わないのだしさっき何が起ころうとどうでもいいとも考えていたことを思い出す。そして本当のことを答えた。
「こう見えて40後半なのよ」
「わわぁ、失礼しました」
あわあわとあわてふためく優里はもぞもぞと次の言葉を選んでいるように感じた。
「じゃあ美代ちゃんって呼んでもいいですか?」
私は驚く。そこなのかと驚く。見た目ではなくて?というか私と友達にでもなりたいというのだろうか。私にはそんな気なんて一切ないのだが。彼女の考えていることが全く分からない。本当に不思議な人だ。とりあえずことを荒立てないように話を合わせておこう。
「いいわよ。じゃあ私も優里ちゃんって呼ぼうかしら」
「やった!あの、お友達になってくれませんか?私こんなだから、友達いなくて、最近ここに越してきたばかりだし」
それは優里がこんな距離の詰め方をするからではないだろうか。私は人生を諦めているからいいものの、この子はもう少し警戒心とかそういうものを大事にした方がいいのではないだろうか。だが合わせるしか無さそうだ。
「いいわよ」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
そうして私たちは友達になることになったのだった。ということは私は明日終わりにすることができないのではないだろうか。早く終わりにしたいのに。
だが優里には「美代ちゃん」と呼ばれることにより、受け入れられた感じがした。だからしばらくはこのままでいいのではないかと勝手に感じてしまう自分も少しばかりはいるのだった。