─翌日。
私は今度は恋人の濱崎眞斗と会う約束をしていた。この日は1日授業をとっておらず、かといって真面目な眞斗は1限から入れているので会うのは遅くなった。
「ごめん、待った?」
「大丈夫、問題ないよ」
待ち合わせ場所に行くと爽やかな笑顔でそう答えてくれた。今日は私を見てくれるといいな。そんなことを考えながらデートへと臨む。
今日は水族館デートの日だ。眞斗はガヤガヤとした賑やかな場所が苦手なのでいつも大抵静かな場所へ行く。
今日は平日だしそう混んでいないだろう。
「じゃあ、行こうか」
「…うん!」
今日はキレイだねとか、服がオシャレだねとか、メイクがどうとかそういうのはないのだろうか。ちゃんと私のことを私としてみてくれているのだろうか。いつかそういう言葉をかけてくれることを期待しているのだが、全くそういった言葉を聞いたことがない。とても不安になってくる。
そんな不安の気持ちを抱えながら水族館へと向かった。水族館デートも何回目だろう。そういえば手を繋ぐこともあまりしない。そろそろあってもいいのでは無いだろうか。付き合って1ヶ月が経つと言うのに。キスだって……。

仲良くなっていると思っていたのは私だけだったのだろうか。こちらから仕掛けていかなければいけないのだろうか。焦る気持ちが半分、このまま相手の距離感を大事にしたいのが半分で訳が分からなくなりそうだ。

そうこう考えているうちに水族館へと着いた。
「今日はウツボはいるのかな」
眞斗はウツボが好きらしい。私はイルカとか可愛いペンギンとかの方が好きだけど、そういう所も惹かれる1つだった。
「ウツボいるといいね!」
ウツボ探しに夢中になっている眞斗を見るとやはりどこか母性本能がくすぐられるのか、かわいいとすら思えてしまう。まるでウツボ探しに夢中な子供を見ている母親のよう。私のことも見てよ。私のこともそれだけ夢中になってよ。そんな雑念が頭をよぎる。ダメだ、今はデートを楽しみたいのだ。

最初の頃はここまで思っていなかった。友達や家族と同じように、見られたいと思う対象ではなかった。どうしてだろう。好きになったからなのか。今は彼だけの視線を私ひとつに向けさせたい。付き合って1ヶ月しか経っていないというのに、そこまでもわたしのことをこの男は魅了してしまったのだ。

1度だけでもいい。そのウツボに向ける視線を私だけのものにして欲しい。そんなドロドロとした感情を抱えながら、今日一日は過ごしたのだった。