ぼんやりと月を眺めていた。今日は月がぼやけて見える。雨が降っていたからだろうか。満たされない。私はそう感じていた。ごく平凡な人生を送ってきたつもりだった。恵まれていたと思う。母は優しかったし、父は怒れば怖い人だったが、怒る内容も理解できるものであった。特にいじめられていたわけでも、友人にも恵まれていた。
なぜこんなにも満たされないのだろう。恋人の篠田祐介はこんな私を満たしてくれるだろうか。今日はもう夜は遅いが電話をかけてみる。電話には出ない。それもそうか。明日は空いているだろうか。メッセージだけ送っておこう。ちょうど明日は休日である。
『明日は暇?』
返事は無い。疲れているのだろう。明日まで返事を待つことにした。焦る必要は無い。逆に夜遅くに迷惑だっただろうか。謝罪の文をつけ足しておこう。
『夜遅くにごめんね』
私は再び窓から外を眺める。ぼんやりと月が浮かんでいる。月明かりに照らされて気分が落ち着くような沈むような。複雑な気持ちになりながらもベッドへと向かいそのまま眠りについた。

朝を迎えると返事が来ていた。
『今日は暇だよ。どこかへ行く?』
私は驚くとともに歓喜した。そしてすぐに返事を返した。
『行く行く!カフェでも行かない?美味しいパンケーキ屋さんがあるんだよね!』
私は甘いものが好きでよくカフェや喫茶店などについてきてもらうのだ。
『いいよ。行こうか』
『やった!』
私は心を躍らせながら準備をする。今日はどんな服を着て行こうか。この間はワンピースを着たから今度はズボンにしようかなとか色々考えていた。するとスマホがブーッと鳴った。
『ごめん。接待が入って今日は行けそうになくなった』
気持ちが下がってしまった。少し残念な気持ちになったが仕方がない。仕事のことだ。
『じゃあ、またの機会に!』
私は今日も満たされないまま一日を終えた。