市役所に向かう途中だった。
「ゔっ…」
「美代ちゃん!」
痛い。なにこれ。ドキドキする。意識が────。


美代ちゃんが倒れた。わたしはあわあわと焦りながら助けを求める。
「だ、誰か、救急車を!」
誰かが救急車を呼んだのかサイレンの音が鳴り響く。
お願い美代ちゃん、私のために死なないで。


私は昔からドジだった。何も無いところで転ぶし、そのくせ自分の意思はあまり曲げないので良くいじめられていた。高校生になってからはそんなに酷くなかったが、友達はあまりできず独りなことが多かった。
そんな私が唯一心から笑えるのが美代ちゃんだった。
美代ちゃんと初めて会った時は驚いた。直感的にわかってしまった。私も同じことを考えたことがあったからだ。入水自殺しようとしていたのだ。ここは普通に止めてもいけない。私なら普通に止められたところでやめられない。ならばとぼけようじゃないか。
落し物したというのは嘘だということもわかった。この人はきっと全部どうでもよくなっているはずだ。私ならそうだ。全部がどうでもよくなる。なんでもは話さないだろうが、無理を通してみよう。
私が私を救えなかった分、私は美代ちゃんを救ってあげたい。これはただのエゴなのかもしれない。自己満足でしか無いのかもしれない。それでも私は救ってあげたい。

「あなたこの人の知り合い?この人の名前は?」
「明山美代子です」
「明山さんね。あなたはこの人の?」
「友人です」
「保険証は?」
「……ないです」
「身分を何か証明するものは?」
「…………ないです。すいません。保険証も無いですし、戸籍がなく、生活保護でも無いそうなので……」
さすがに全額払うことはできないだろう。
「そうだね、全額負担になるからね。これからこんなことで呼ばないでくれる?」
冷たい世の中だ。救急車は処置することなく帰って行ってしまった。私はただ腕の中で苦しそうに顔を歪めながら目を閉じて倒れる美代ちゃんを見ていることしかできなかった。
私はその時感じた。時が止まったと。私の時が止まった。20歳で止まってしまった。

私ももう終わりにしてしまおうか。