俺は優愛ちゃんから過去を聞いて驚いた。








まさかあの旧花咲財閥のご令嬢だったなんて。





でもどこか納得してしまうところもあった。





彼女は所作や姿勢から良いとこの生まれであることは想像ついたし、上流階級特有の雰囲気が出ていた。







「そっか…そうだったんだね。ごめんね今まで気づかなくて…。







にしても、優愛ちゃんのお姉さん…





花咲桃奈さんを、俺は知っている。」





俺がそう言うと優愛ちゃんは驚いたように顔を上げ俺を真っ直ぐ見つめていた。





俺は話すことにした。





俺の過去を。






「……まず、花咲桃奈さんは…、







俺の死んだ兄の恋人だった人だ。






名前は知っていた。





会ったこともある。






人目でわかった。





この人は…善人だと。





そして…俺の兄ちゃん…





………俺の兄ちゃんの名は宮瀬涼也。





涼也兄ちゃんは俺とは正反対の性格をしていた。




明るく、活発で優しく、面倒見のいい、自慢の兄だった。





俺は涼也兄ちゃんが好きだったし、尊敬していた。






その涼也兄ちゃんに彼女ができたのは知っていた。





よく家に来ていたし、俺の父さんと母さんにも挨拶していたのを覚えている。





小さかった俺ともよく遊んでくれた。




そして、





桃奈姉ちゃんは…いつも首になにかつけていた。






俺は不思議になって聞いてみたことがあった。






「どうしていつも首になにか下げているの?」




と…、






すると桃奈姉ちゃんは少し驚いた後、優しく微笑んで、俺の質問に答えてくれた。





「あぁ、これ?これはねロケットペンダント。写真が入れれるのよ?見る?」





「うん!」




そう言い、ロケットペンダントを首から外し左右にずらすと1枚の写真が出てきた。





その写真には一人の女の子が満面の笑みで写っていた。




「…この子は?」




「あぁ、そっか。蓮くん優愛には会ったことないんだよね。この子は私の妹で優愛っていうの。可愛いでしょ?」





「……うん。可愛い。」





俺は素直にそう答えた。





すると桃奈姉ちゃんが嬉しそうに笑った後、段々と悲しそうな顔になっていった。





「桃奈姉ちゃん…?」





「ねぇ、連くん。もし…もしね。私が死んじゃうようなことがあったら…優愛をよろしくね。変なことを頼んでいるのでは知ってるの。でも…私じゃ…最後までに守りきれないの…。だからお願い。」





俺は初めて桃奈姉ちゃんにお願いをされた。





もちろん最初は驚いた。





会ったこともない女の子を頼まれたんだしね。






しかも好きな桃奈姉ちゃんの妹。





当時の俺はあんまり意味が分かっていなかったが、桃奈姉ちゃんにこれ以上悲しい顔をしてほしくなくて、首を縦にふった。





それを見た桃奈姉ちゃんは安心したように笑った後、小さく『ありがとう』と言った。






それ以来その話はすることがなく、2週間後桃奈姉ちゃんが死んだと報告があった。






俺は…報告が信じられなかった。





だって…あの桃奈姉ちゃんだよ…?





善人の塊のような桃奈姉ちゃんが死ぬわけないしゃん。





その報告を俺と一緒にご飯を食べていた涼也兄ちゃんは顔を真っ青にして掴んでいたナイフを床に落とした。





その日以来涼也兄ちゃんは変わった。




澄んでいた目から光が消え、見るからに生気がなくなっていっていた。




俺にはなんとか笑顔を作って笑ってくれてたけど、俺には作り笑いだということが直ぐにわかったし、それに涼也兄ちゃんも気づいていたと思う。





………俺はなんて声を掛けていいかわからなかった。






そして、涼也兄ちゃんも桃奈姉ちゃんの後を追うように死んだ。






死因は腹部損傷。





何者かに裏路地で腹を包丁で刺されたらしい。






必死に犯人を探したが…分からなかった。






俺は好きだった兄と姉を亡くし絶望していた。






それ以降だ。






俺が…仮面を被るようになったのは。」





「これが俺の知ってる全てだよ。」






俺が全てを話し終えると、優愛ちゃんはその綺麗なスカイブルーの瞳から大粒の涙をこぼした。






「優愛ちゃん…?」






「ごめっ…ごめんなさい。私のせいで…あなたの好きなお兄様と桃奈お姉様を死なせてしまって。」





ああ…そのこと。





「ねぇ、優愛ちゃん。涼也兄ちゃんと桃奈姉ちゃんが死んだのは優愛のせいじゃないよ。」





「えっ…?」




だって…





「だって、優愛が桃奈姉ちゃんを階段から落としたの?涼也兄ちゃんを包丁で刺したの?違うでしょ?」





そう、優愛は根本から間違っているのだ。





「優愛は無駄な責任を感じているだけ。」





俺が少し怒ったようにいうと、





「どうして……?」





「え?」




「どうして…そんなことが言えるの…?私がいなければ二人共死んでなかったかもしれないんだよ…?私は恨まれても当然の人間だよ。それなのに…、
どうして…?」





優愛ちゃん…





「優愛ちゃん。聞いて。もう二度と生まれて来なければなんて言わないで。桃奈姉ちゃんが本当に優愛が生まれて来なければいいと言っていたの?そんなわけないよね。だって優愛が一番それを分かってるんじゃない?」





優愛は図星と言わんばかりにその大きな瞳を揺らした。






「…宮瀬蓮っ…。うんん。蓮くんっ!」





優愛ちゃんは呼び方を宮瀬蓮から蓮くんに変え、俺にゆっくり抱きついてきた。





俺は無償に言いたくなった。





「優愛…愛してる。俺の女になって。」





と。






すると優愛はさっきよりも大きく瞳を揺らし、頬を赤く染め、はにかんだように微笑んだ。





その笑顔は桃奈姉ちゃんにそっくりだった。






「あぁ、やっぱり姉妹だね。」





俺が思わずそう言うと、





俺の胸の中で小さく声が聞こえた。



「ありがとう…。」



と。