「今すぐに医師を呼べっ! それとすぐに水を……!」


ステファンの言葉が遠くに聞こえていた。
彼はフランソワーズを抱えて部屋の外へ。
走っているのかフランソワーズの体が激しく揺れているような気がした。
フカフカで太陽の匂いがするベッドに寝かせられたフランソワーズに渡される水。
しかしコップを持つ手に力が入るはずもなく、医師たちがどうするのか迷っていた時だった。


「貸してくれ……!」


ステファンの声と共に水が入ったコップが傾いたのが見えた。
なんとか意識がもっていたのは、水を飲まなければ大変なことになるとわかっていたからだろう。

(…………喉が渇いた)

そう思っているとステファンの顔が眼前にまで近づいてくるのが見えた。
唇に柔らかい感触がしたのと同時に冷たい水が流れ込んでくる。
ゴクリとフランソワーズの喉が動く。


「もっ、と……」


喉が潤ったことでフランソワーズから掠れた声が出る。
ステファンに口移しで水をもらっていることはわかっていた。
恥ずかしさよりも、喉の渇きを潤したくて堪らなかったのだ。

何度か水をもらった後にフランソワーズはホッと息を吐き出した。
ステファンのゴツゴツした指が口元についた水を拭う。
彼の心配そうにこちらを見る視線に胸が熱くなる。