「フランソワーズ、フランソワーズッ! 大丈夫なのか? 返事をしてくれっ」


ステファンが必死にフランソワーズの名前を呼んでいる声が聞こえた。
返事を返そうとするが、うまく声が出ない。
そういえば自分が声をかけるまで部屋に入らないでと頼んだことを思い出していた。

(このままだと……気づいてもらえないわね)

フランソワーズはなんとか壁まで移動して、震える腕を上げてからトントンと壁を叩く。
肩で荒く息を吐き出しながらもアピールしていた。

(水を、飲まないと……)

ここまで長時間、祈り続けたのは久しぶりだった。
しかし疲れからか眠気が襲う。
このまま眠ってしまいそうだと思っていると、扉から光が漏れる。


「──フランソワーズッ!」


爽やかなシトラスの香りが鼻を掠めた。
体が持ち上げられる感覚がしたが、返事ができずにそのままされるがままだ。
艶やかな黒髪と透き通る水のような青い瞳。
どうやらフランソワーズを助けてくれたのはステファンのようだ。

(ステファン殿下が気づいてくださったのね)

フランソワーズはカサついた唇を開く。
水が欲しいことを訴えかけていたのだが、ステファンに届くだろうか。
フランソワーズの唇に耳を寄せたステファンは何が言いたいのか理解してくれたのか叫ぶように声を上げた。