慌ただしく動く人々を見つつ、フランソワーズはステファンの方へ歩いていく。
フランソワーズはステファンの向けている剣先を気にすることなく手を伸ばす。
そして荒く息を吐き出しているステファンの血走った目を見つめながら頬に手を添える。
フランソワーズは彼を安心させるように微笑んでから頬を撫でた。


「ステファン殿下、もう大丈夫ですわ」


彼の胸元に手を当てた瞬間、体から力が抜けていく。
カラカラと剣が床に落ちて音を立てて、ステファンが膝をついた。


「……ッフラン、ソワーズ」

「わたくしが祈り始めたらすぐにステファン殿下を」


ステファンの側近、イザークとノアが頷いたのを確認してから、その場に跪いて手を合わせた。
その瞬間、ステファンは意識を失った。
フランソワーズの指示通りに彼を運ぶイザークとノア。
パタリと扉がしまった瞬間、部屋の中が重苦しい空気に包まれたような気がした。


「……さぁ、はじめましょう」


フランソワーズは意識を集中して瞼を閉じる。
暴走した力を押さえ込むように祈りを捧げていく。
黒い煙が部屋に充満していくような息苦しさを感じていた。
しかし、シュバリタリア王国の宝玉に比べたらどうってことはない。

(心を空っぽに……意識を集中する)

そこから自分の心の声が聞こえなくなった。


* * *