ヒューヒューと鳴る喉の音がここまで聞こえた。
フランソワーズは顔を背けつつもステファンの首元に手を伸ばす。


「失礼します……!」


荒く息を吐き出すステファンのキッチリと閉められたクラバットを取り、シャツのボタンを丁寧に外していく。
ステファンの肌にある違和感を感じてフランソワーズは手を止めた。
初めは黒髪が汗で肌に張り付いているのかと思っていた。
しかし明らかに髪ではなく、肌に直接入っている模様だと思った。
そしてフランソワーズはステファンのある噂について思い出していた。

(肌に黒い模様のようなアザがあるわ。刺青が入っているって本当だったのね……)

それにしても禍々しいほどに黒く、体全体に伸びているように見える。
すぐに刺青ではないことは理解できた。
そして、この黒いアザを見てある感覚を思い出していた。

(悪魔の宝玉から出ている空気と似ている気がする。なんて禍々しい気配なの……!)

それを確かめるためにフランソワーズがステファンに触れようとした時だった。


「──触るなッ!」

「……っ!」


フランソワーズの手を弾いたステファンの表情は怒りに満ちている。
普段のステファンとはかけ離れた態度に驚いていた。
フランソワーズはビリビリと痺れる手を庇うように掴む。
そんなフランソワーズを見ながらステファンは小さく「……すまない」と申し訳なさそうに眉を顰め、頭を抱えてしまう。
何かの衝動を必死に抑えているように見えた。