今から本当にフェーブル王国に向かうのだろうか。
馬車の中でステファンは先ほど饒舌だったことが嘘のように黙り込んでいる。
重苦しい沈黙に耐えかねてフランソワーズは口を開いた。


「ステファン殿下、パーティーはもういいのですか?」

「ああ……プレゼントや手紙は渡してあるし、あの状況で彼らに挨拶をするなんてありえない。それに僕は……」


そう言いかけたステファンはフランソワーズをまっすぐに見つめた後に視線を逸らしてしまった。


「……?」


フランソワーズは首を傾げていると、またいつもの笑みを浮かべたステファンは口を開く。


「貴族たちが集まる中で証拠もないのにあのようなパフォーマンスをする王太子と親しいと思われても嫌だしね」

「……まぁ、そうですわね」


セドリックは大国の王太子であるステファンと親しいことを自慢して回っていた。
だが、ステファンはそこまでセドリックとよく思ってはいないようだ。

(意外だわ……よく話している姿は見かけるけど、親しいわけではないのね)

フェーブル王国は、シュバリタイア王国に対して友好的だったように思う。
その理由はフランソワーズにはわからないが、なにかあることは確かだろう。
それに自身の誕生日パーティーで、あのような騒ぎを起こすのはよく見えるはずもない。
フランソワーズとセドリックは婚約関係にあったのにもかかわらず、マドレーヌとあの場に立つなど自分の不貞行為を堂々と披露しているようなものだ。