大国の王太子にそう言われてしまえば、何も言えなくなってしまう。
追い討ちをかけるようにフランソワーズは、馬車の扉の前で下ろされてしまった。
ステファンはその場から動けないでいるフランソワーズをエスコートするように手を伸ばす。


「待ってください! まだ訳を説明されておりません。でなければ馬車には乗れませんから」


理由も話されないまま馬車に乗ることはできはしない。
震える手でフランソワーズはワンピースを掴んでいた。
ステファンは困ったように笑いつつ「危害を加えるつもりはないんだ」と微笑んでいる。
だが強引に連れてこられたからか、フランソワーズはステファンを警戒していた。


「理由は馬車の中で話したい。人には聞かれたくないんだ」


頑なに理由を説明しないステファンは、真剣な表情でフランソワーズを見た。
ため息を吐いたフランソワーズはあえてステファンの手を取ることなく、馬車の中に入っていく。

(まさかステファン殿下に、こんなタイミングで捕まるなんて予想外だわ)

そんなフランソワーズを気にする様子はなく、ステファンは騎士や御者に声をかけた後に馬車の中へ。
フランソワーズの前に腰掛けた彼の合図で馬車は走り出す。

窓の外を眺めていると、当然のように王都から離れていく。