まだ、どこに行くかは決めていない。
フランソワーズは過酷な労働環境ではあるが、特別な力を持っていたため常に守られていた。
それがなくなり外の世界は危険がたくさんあることはわかっていたが、ここにいるよりはずっといいと思っていた。

にっこりと唇は弧を描いてはいるが、いつもの笑みとは少しだけ違うように思えた。
フランソワーズはステファンの掴んでいる手を無理矢理外してから笑顔で前を通り過ぎようとした時だった。
ステファンが持っている鞘がフランソワーズの行く手を阻むように目の前へ。
フランソワーズは折角のいい気分を邪魔されたことが腹立たしくなり、思わずステファンを睨みつけて剣の鞘を強く握った。


「君がこんなに感情豊かだったなんて意外だな。新しい一面を見ることができて嬉しいよ」

「わたくしも、こんな乱暴な方法で行手を阻まれたのは初めてですわ」

「僕は君と話をしたいだけなんだ」

「今は時間がありませんの。また今度にしてくださいませ」

「あはは、それは困ったなぁ……」


フランソワーズが無理矢理前に進もうとするのを笑みを浮かべながら引き止めるステファン。
このままでは埒が明ないと、フランソワーズはため息を吐いてステファンに訴えかけるように言った。