(ステファン・ル・フェーブル……隣国のフェーブル王国の王太子。彼がどうしてこんなところにいるの?)

フランソワーズは別人を装おうとするものの、先ほど名前を呼ばれたことを思い出して断念することになる。
フランソワーズは平静を装いつつも、逃げ場のない状況に焦りを感じていた。

何より思ったことが表情に出やすいセドリックと違い、ステファンはいつも笑顔だ。
ミステリアスな雰囲気で、考えが読めないことがフランソワーズの記憶から見て取れる。
そういえばと、次巻の小説の舞台にフェーブル王国が関わっていることを思い出す。
そして次の巻の内容を知らないフランソワーズには彼が結局何者なのかはわからない。


「ステファン殿下、ごきげんよう」

「この状況で普通に挨拶を返してくるところが、君らしいというべきだろうか?」

「何か御用でしょうか? 用がないようでしたら、わたくししは急いでいるので失礼いたします」


ステファンに頭を下げて、足早に立ち去ろうとしたフランソワーズは手首を掴まれて引き止められてしまう。
フランソワーズは振り返りつつ、手首を見ながら訴えかけるように視線を送る。