フランソワーズは今まで培ってきた美しいカーテシーを披露する。


「では皆様、ごきげんよう」


悪役令嬢らしく口角を上げてクスリと笑ってから背を向けて、真っ赤な絨毯の上を歩いていく。


「アイツを今すぐに捕えろっ!」


というセドリックの声が聞こえたような気がしたが、騎士たちもフランソワーズに手を出せないでいる。
フランソワーズが塔の最上階でずっと祈っていることを知っているのは護衛の騎士たちくらいだろう。

シュバリタイア国王もおらず、ベルナール公爵も何も言わないことから動こうか迷っているようにも見える。
こんな曖昧な状況でフランソワーズを捕えるわけにはいかなかったのだろう。
そんな騎士たちを気にすることなくカツカツとヒールを鳴らしながら会場を後にする。

背後でバタリと音を立てて、重厚な扉が閉まる。
フランソワーズは前を向いて、足を進めていく。
人がいなくなるに連れて、その足取りはどんどんと軽くなっていく。

(ウフフ、うまくやれた。これでわたくしは自由よっ!)

フランソワーズはヒールを脱ぎ捨てて、手に持つとある場所に向かって走り出す。
今までフランソワーズのように感情を一切出さずに、彼女を演じて耐え続けるのは辛かった。