というよりも虐げられていると言いながら、フランソワーズと一緒にいたことなどほとんどないではないか。

(これですべてが思い通りに終わると思っているんでしょうが……甘いのよ)

このまま原作通りならば、フランソワーズはマドレーヌに牙を向ける。
今まで溜め込んだ怒りを爆発させた彼女はテーブルにあったナイフを手に取りマドレーヌに襲いかかるのだ。
そして今まで積み上げてきたものをすべてを失ってしまい、永遠に宝玉を浄化することを命じられる。
そして悪魔の宝玉を黒く染め上げる。
だが、それが原作通りならばの話だ。

フランソワーズはテーブルにあったナイフを手にしようと瞬間、会場がざわりと騒ぐ。
マドレーヌの唇が大きな弧を描いて、その視線は早く早くと訴えかけているようだ。

──カチャリ

フランソワーズはナイフを手に取ることはない。
代わりにスプーンを手に取って、わざとらしく上に掲げていた。


「あら……このスプーンは曇っていますわよ? まるでセドリック殿下の目のようですわ」

「なっ……!」


セドリックには嫌味が通じたようだが、マドレーヌは物語通りにいかないことに愕然としている。
その表情を見ているだけでも今日まで〝フランソワーズ〟を演じてきた甲斐があったというものだ。