「はぁ」

「なんだよ、大きなため息ついて」

「誰のせいだと思ってんの」

私は、片桐くんの分厚い黒縁メガネを睨んで、ミートパスタを口に運んだ。

「何のことだよ」

私が悶々と考えている間にも片桐くんは着々と食べ進めていたのか、彼はすでに食器を机の隅に寄せ、呑気に食後のコーヒーを飲んでいる。

ここは私の両親が経営するカフェ「Venus」。

私たちはいつも通り共に夜ごはんを食べていた。

この不思議な関係が始まったのは物心つく前のこと。

私と片桐くんは、家が隣同士で、小さい頃からまるで本当の兄弟かのように一緒に育ってきた。

というのも、片桐くんのお母さんが夜遅くまで働いていて、子ども--片桐くんの面倒が見られないと困っていた彼女に手を差し伸べたのがうちの両親だったからだ。

しかし、お互いが高校生になった今では、接点はと言えば夜ごはんのとき彼が店に食べに来るくらいで、それもご飯を食べ終えると片桐くんは早々に家に引き上げていく。

私なんかと過ごすより一人で過ごす方がよほど有意義なんだろう。

「あのさ、じゃあ一つ聞くけど」

私は飲んでいたアイスティーのグラスを机に置いて言った。

「どうして私の友達に突っかかるわけ?」

「突っかかる? 俺が? いつ、誰に?」

片桐くんはあからさまに眉を顰めた。

「何しらばっくれてるの? 今日、学校で美奈と沙羅の会話に水をさしたでしょ」

私が問い詰めると、片桐くんは、十秒ほど口を閉ざしてから「あぁ、あのことか」と言った。

「あれは事実を指摘したんであって、突っかかったわけじゃない」