「待って、私はまだ死なない。死んでたまるか!」

私は胸ポケットに入っていたボールペンを感覚がなくなりそうな足のふとももに突き刺した。

痛い、痛いけど、ちょっと意識がはっきりした。

「う、うそ、何でまだ死なないのよ。今までの子は毒が注入されたらすぐに死んでたのに」

おびえたように後ずさりしながら恵理は部屋から出ようとする。

私は恵理を追いかけようとするが、自分の意思とは反対に私の下半身はもう体を支えることができなくなっていた。

そのまま無様に床に倒れこむ。まるで土下座しているような格好だ。

それでも私はわずかに残った腕の感覚ではいずりながら部屋の出口に向かう。

「恵理、だいじょうぶだったか?」

部屋の外から聞こえてきたのは武志君の声だ。

「あっ、武志君、武志君も無事に勝ち残ったんだね。よかった」

「恵理、(あおい)はどこにいるんだ?」

「武志君、(あおい)は私を勝ち残らせるために死んじゃった」

恵理の押し殺した悲しげな声に武志君は驚いたように叫ぶ。

「……う、うそだ、(あおい)が死ぬなんて」

「武志君、私も胸が張り裂けそうだよ」

恵理の消え入るような声を最後に外の声が少しづつ遠ざかっていく。

私はまだ生きてる。武志君、恵理はうそをついてる。

私はなおもはいずりながら出口の扉に近づいていく。

もう少し、もう少し、私はここにいるよ。

叫ぼうとしたが、声が出ない。

違う、呼吸もできない。

私は震える手を自分の胸にもっていった。

何も感じない。止まってる私の心臓。

ダメだ。うごけ、うごけ、私の心臓。

残ったひと呼吸分の力で私は自分の胸をドンと叩く。

「ぶはぁっ」

奇跡だ。また呼吸が戻った。