「ま、待てよ。この僕をアビスに連れて行こうっていうのか!」

ふたりの黒服は連行が面倒だと判断したのかポケットから黒い筒を取り出す。

あれは私が外で暴れた時に使われた毒薬の筒と同じものだ。

毒殺用ではなく、暴れる生徒を大人しくさせるための薬なのだろう。

「やめろ。僕はアビスになって行きたくない。作業室で寝ないで仕事をするから!」

大粒の涙を流しながら、真桑はジタバタと暴れ這いずりながら遊戯室の中を逃げ回る。

ふたりの黒服は筒状の薬を使って真桑の動きを封じ込め、両脇をがっちりと拘束する。

「僕はまだここにいても役に立つから! 何でもできるから! アビスだけはやめてくれ!」

薬のせいで意識は弱くなっているはずなのに、真桑は最後の絶叫を何度も何度も発して懇願を止めなかった。

「誰か助けてくれ! 僕に金を貸してくれたら、何倍にしても返すから!」

遊戯室から真桑が連れ出されても、しばらくは声が聞こえていたが、やがてその声も聞こえなくなってしまった。