下を向いて歩いていたからか、反対方向に歩く誰かと正面でぶつかってしまったらしい。

服越しなのに生ぬるい感触を覚え、私は、そのまますっと離れ避けて、また何事もないように、前へと進んでいく。



「殺すぞ」



気付いたら、私は、胸ぐらを掴まれていた。




「お前何様だ?!!あぁん!?!?」



早くも大勢の人に周りは埋まり、肝心の、刑務官はこの状況のことを見えていなかった。


…ん、誰?


初めてその人の顔を目で捉えると、肌の黒い、大きな大きな大柄の男だった。

腕や胸は筋肉で盛り上がっている。大きな手で、引きちぎれるくらいに私の胸ぐらを掴みにかかってる。



「…ああ、すみません、」



大きなタトゥーが刻まれている腕を掴む。見た目以上に厚いその腕を、そのままぐっと押してみる。


…だがその行いは、怒りの鍋を更に沸騰させただけになった。



「お前なめてんのかぁ!!?」

「…すみません、」



ヒステリックな怒鳴り声が鼓膜に響き渡る。それでも、全く、心には響き渡らなかった。

すると、私の顔をジロジロ見つめてきて、「ん?」と男は眉を寄せて首を傾げる。



「お前あれか?零堂家の娘ってやつかぁ?」



こいつが?と周りがざわざわし始めた。

ああ、ほんと最悪だ、運が悪い。

そろそろ離してくれないかな、

服が千切れる。




「お前がいてくれたから、色々と自由になってよぉ!!!んで、色んなひょろい奴、殴り殺せるわけでさ??お前含めてな???」



この状況ってお前の自業自得ってやつ?なんて、頭の悪いゴリラはそんなことを言っていた。全く耳に入らず、抜けていく。



「ぐははは、感謝しなきゃだなぁ?」

「…すみません、」

「こっわ~!!殴りがいがありそうだわ!」 



こんな人、世界にいたんだ、ほんとに。

殴りにかかってくるゴリラ、いるんだな。

忘れてた、ここは、刑務所だった。

これ、大分やばいのでは??