―下水道の匂いがする。


 
死んでもいないのに、この刑務所、いや牢獄は、地獄そのもののようだった。

鼻から息を吸う度に臭くて、腐った卵のような匂いがする。それはそれは強烈な匂いで、たまに、めまいを催すことがある。

息すらも油断禁物なこの牢獄に入って、もう1ヵ月が経過しているはずなのに、頑固な体は、この環境に慣れてくれないでいた。



まあ、無理はない、か。

この環境とは全くもって違う場所に住んでいたのだから、頑固なのも無理はないだろう。



…そう、何せ、私は有名な財閥の娘なのだから。



だった、じゃない。過去形じゃいられない。



牢獄に入った私は今でも、有名な家柄で生まれ育った、いわゆるお嬢であることは変えない。

そんな頑固な思いは、自分は強い心持っていたとかそんなんじゃなくて、むしろその逆で、弱くて脆い証に過ぎなかった。









ここは、比較的、自由な刑務所であった。


地獄のよう、と言った私に矛盾が発生するが、地獄なのは匂いだけである。

私の想像していた刑務所とは、全くもって優しく安心した記憶がある。


牢獄なことに変わりはないが、自由がある。

最新の刑務所整備が備わっているのだ。


絶対に囚人が脱獄など実行できないよう、様々な脱獄パターンを考えて、建物には頑丈な整備がしてあるらしい。

それに、食堂や廊下、囚人部屋前の廊下など、所々に刑務官が厳重に見張っている。


身勝手な行動はできないようにされているが、そのおかげで自由を保てているらしい。



―同じ部屋の囚人が話していた噂を聞いた。