「どうしてですか?」
と、庵主さん。



その男性は言葉に詰まり、黙った。



米子さんは、話す。



「祖父はこの村で起きた事件をまとめた『内日暮村事件録』という本や、この短編集の中にある『あなたくれない』で、私に知識を与えてくれたんです」

「知識……?」
と、村井のおじさん。



「はい。主に、“くれない様”についての知識」

「!」



先ほど野次を飛ばした男性が、
「そんなの、なんであんたのじいさんが知っているんだ? 村について研究していたかなんだか知らないけれど」
と言って、
「どうせその逃げ切る方法とやらも、あんたらの妄想か戯言だろうよ」
なんて鼻で笑っている。



「“くれない様”について、あなたはどれだけのことをご存知ですか?」
と、米子さんが男性に言った。



「は?」

「“くれない様”は誰のことなのか、一体いつ祀られたのか、何が苦手なのか、あなたご存知?」