振り向かない。

……ううん、振り向けない。



私、光本 穂希(みつもと ほまれ)は、走った。






走って。

走って。






逃げた。







悲鳴が聞こえる。






(あぁ、琳音(りんね)の声だ……!)






アレに、捕まったのかもしれない。






だけど。

私は戻ることなく。






泣きながら、走り続けた。









ーーーその前日。

二学期が始まってすぐの水曜日の放課後。

バスから下りると、バス停の前にある村の自治会館の外壁にセミが一匹とまっていて、鳴き声が耳にうるさい。



「穂希、何見てんの?」



同じバスに乗っていた同級生の川村 駿翔(かわむら しゅんと)くんが、不思議そうに私を見ている。



「なんでもないよ。暑いなぁって思ってただけ」

「村に帰ってくるとさ、余計に暑いのはなんでなんだろうな?」

「わかんない。でも、すっごく日差しがきつい気がするよね」

「隣町のが涼しいよな」