米子さんは私といる居間から離れて、どこかの部屋から一冊の本を持って来た。
それは、江戸の後期から昭和元年までの村の事件を記した、『内日暮村事件録』の一冊目だった。
「二冊ともあるの。……というより、祖父の本は全てここにある」
「そうだったんですね」
「穂希ちゃん、“くれない様”について……、ううん、黛 夕子について、あなたはよく調べたと思う」
米子さんはそう言って、その本に挟んであったらしい、一枚の紙の切れ端を取り出した。
「それは何ですか?」
と尋ねると、
「“くれない様”から逃げ切る方法」
米子さんは短く答えた。
逃げ切る方法……!?
「祖父から私へ受け継いだ物の内のひとつ。これを穂希ちゃん、あなたに見せたいと思う」
「……は、はいっ」
逃げ切る方法があるんだ、と思うと。
希望の光が大きく迎えてくれているようで。
一気に気持ちが楽になる。
米子さんはその紙切れを私に見せる。
そこには、こう書いてあった。