「はい。夕子の命を売ったお金ですよね」

「……その時、家にひとりの女中を残しているのよ。覚えていない? 読んだはずよ。あの火事の時、燃える家の中には夕子と一緒に、女中もいたはずなの」

「そっか! その女中が家にいたことを、大橋寛一は知らないかもしれない。女中の遺体を見て、大橋 寛一が勘違いした可能性があるんですね?」



「そういうこと」と米子さんは頷いて、
「これはどこにも書いていないことで、私は祖父に、祖父は曽祖父に聞いた話なんだけど……」
と、米子さんは話し出す。



「大橋 寛一は、黛 夕子を祀ってはいないの」

「えっ!」

「“くれない様”として祀ったのは、夕子の兄、政一よ」



……そうか。

そうじゃないと、おかしい。

大橋 寛一がもし“くれない様”として祀ったとすれば、その祀られた魂は黛家の女中のもので。

黛 夕子のはずがないから。



「成次郎が夕子を殺害したと勘違いして、まず彼が相談したのは政一だった。政一は家を守るために成次郎を逃したことにして、その場で亡き者にしている。……つまり、殺した」