私は二冊目の本を閉じ、駿翔くんが開いているページをのぞく。



そこにはハッキリとした文字で、【1869年 大橋 寛太郎殺人事件】と書かれてある。



「『地主である大橋 寛一(おおはし かんいち)の長男 大橋 寛太郎は、幼い頃から村の娘、花村 トキ子(はなむら ときこ)との縁談が決まっていたが、そのことを周囲に明かしていなかった……』」



駿翔くんが小声で読んでくれる。

それには、こういうことが書かれてあった。



大橋 寛太郎と花村 トキ子が婚約者だとは知らずに、ふたりと同い年の村娘、黛 夕子は寛太郎に淡い恋心を抱いていた。

美しい容姿でわがままな娘に育った夕子は、なんでも欲しがる人間で。

手に入らないとなると、度々癇癪(かんしゃく)を起こしていた。



十八歳の年。

寛太郎に長年の想いを打ち明けた夕子。

自分が寛太郎の花嫁になれると信じて疑わなかったが、寛太郎からは婚約者の存在を明かされる。



夕子は激怒して、「トキ子を殺す」「自分を嫁として迎えろ」と寛太郎を脅した。

寛太郎はそんな夕子を相手にしなかった。