「“くれない様”から穂希が逃れられたことも驚きだし、“くれない様”が悲鳴をあげて逃げるなんてことも、聞いたことがないんだ」




おばあちゃんに村井のおじさんも頷き、
「“くれない様”に見つかったら、もう逃げられない。それが命の尽きる瞬間だって昔から言われている……」
と、続ける。



「……でも、穂希は逃げられた」



お母さんが呟く。

ホッとしているのか、少し笑顔を見せた。



「もう大丈夫なのかな? 穂希は逃げられたんだから、“くれない様”はもう来ない?」

「そうとは限らない」
と、お母さんにおばあちゃんが、ピシャリと言い返す。



「だけど琳音だって、生きているんですよね?」
と、琳音のお母さん。



「穂希、琳音ちゃんの声が違ったって、確かなのかい?」



おばあちゃんが私をまっすぐ見る。



「うん」
と、頷いてから、聞いた声を思い出す。



「琳音はハッキリとした声で話す。だけど今日聞いた声は、どっちかというとおっとりと話していた感じかも。言葉は全然おっとりしてないけど」