「私は手に入れる。そんな顔をしても、無駄なんだから」
その人が私に顔を近づけて来た。
じっくりと。
至近距離で。
私の目を覗き込んでいる。
「絶対に逃さない」
と、今度は小さな息だけの声で呟く。
「あなた、“くれない様”なんでしょう!?」
と、私は言った。
風が吹いてきて。
自分が汗ばんでいることを自覚する。
「琳音を返してよ! 一緒に家に帰るんだから!!」
裏返った声で。
恐怖と戦いながら。
私は叫んだ。
その人は言った。
「“くれない様”って呼ばれることは、不快よ」
(やっぱり、“くれない様”なんだ!)
「この子は、返事をした」
「……!?」
「だからもう、私のものよ」
「違う!」
「違わない。間違いないよ。返事をした」
(琳音の体に取り憑いているんだ!)
「あなたも、返事をしてよ」
「……えっ?」
「欲しい……、欲しい……」
“くれない様”の声がどんどん低くなる。