雄太君に告白されてすぐ教室に戻った私は、桜にその事を報告した。
「桜、どうしよう……」
「どうしたの?息切らして。」
「雄太君に……」
「雄太君って、一組の?確か一年の時同じクラスだったよね?」
「うん…その雄太君に告白された……」
「え"え"!?」
「どうしよ……」
 桜は『う~ん……』と唸ると私の方を向いた。

「告白された時、どう思った?」
「へ?ど、どうって……」
「嫌だった?」
「い、嫌じゃなかったよ。雄太君とは同じクラスだった時仲良かったし。話も合うしノリも合うし一緒にいて楽しかったけど…」
「けど?」
「好きって言われた時、何か違うなって思った。私なんかの事好きになってくれて純粋に嬉しいのに、それだけっていうか……」
「心がときめかないって事?」
「そ、そう!そんな感じ。」
「成る程ねぇ~……」
 頬杖をついて何かを考えてる様子。私は桜が何かいいアドバイスをくれるのではと待っていた。

「千尋。」
「は、はい!」
「その時、誰の事を思い浮かべた?」
「ふぇっ!」
 あまりの事に変な声が出た。笑って誤魔化そうとするが、桜の目は恐いくらい真剣だった。
「……高崎先生。」
「そう……」
 絞り出すように白状すると、桜は組んでいた腕をほどいて満面の笑顔でこう言った。
「そうとわかったら千尋。今日から猛勉強だよ!」



 それからの日々は本当に地獄のようだった。
 お陰様で世界史と地学は楽勝だったけど、英語と数学が絶望的にヤバくて、鬼の形相…いや般若に変化した我が親友に拷問に近いくらいの指導を受け続けた。
 夜は悪夢で魘され、昼間は鞭でいたぶられる(嘘)事二週間……
 ついに本番を迎えて、私は今の自分の精一杯を答案用紙にぶつけた。
 そして結果は……

「……い、い…」
「千尋?どうだった?」
「いやったぁ~!!」
「きゃぁぁ!」
 返ってきたテスト用紙を思いっ切り鷲づかみにすると、桜に抱きついた。
 痴漢にあったみたいな声を上げてるけど気にしない。
「ありがとう、桜~!この恩は一生忘れないから!!」
「わかった!わかったから離して…苦しい……」
 心底苦しそうな声を出す桜を慌てて離すと、息を整えながら軽く睨まれた。
「ごめんって……」
「まったく、もう……」
 呆れた声を出しながらも嬉しそうに笑っている。自分が教えた手前、桜も密かに心配だったのだろう。本当に感謝、感謝だ。

「これで借りは返したわよ、千尋。」
「借り?何の事?」
「ほら、夏休みの補習の手伝い行けるのは千尋のお陰じゃない。千尋が委員長だったからどさくさに紛れて私も参加できるんだから。」
「そういう事か。じゃあそのお返しに私に勉強教えてたの?」
「まぁね。でも千尋がようやく自分の気持ちに素直になり始めたっていうのもあるかね。」
「え?」
「高崎先生の事。こんなに必死に頑張ったって事は、先生にもっと近づきたいって事でしょ?」
 悪戯っぽい顔で言われて、顔が真っ赤になる。

 確かに、こんなに頑張ったのはテストで赤点を取りたくなかったから。
 その動機は、夏休みの補習を受ける訳にはいかなかったから。
 何故なら私には先生のお手伝いという役目があるから。
 そしてできれば一緒にいたいから……

「せっかくのその想い、無駄にしちゃダメだよ。千尋。」
「桜……」
「よーし!今年の夏休みは二人で頑張ろう!エイエイオー!!」
「オー……」
 桜の勢いに若干気圧されながらも、右拳を振り上げたのだった……