私、雄太君、由美ちゃんの三人は、何となくの流れで一緒に校門を出た。
 偶然な事に三人共途中までは方向が一緒らしく、自然に私達の足並みは揃う。

「……いつまで笑ってんの?」
「くくくっ……だってさ、『先生さようなら。皆さんさようなら。』って幼稚園児かよ。アハハ!」
「言わないでよ……後悔してるんだから……」
「でも、元気があっていいと私は思うけど。」
「ありがと、由美ちゃん……」
 図書室を出てからずーっとニヤけていた雄太君は、もう我慢できないという感じで大爆笑する。雄太君に睨みを利かせながら、由美ちゃんの微妙なフォローに私は脱力した。
 でも確かにアレはないなぁ~と落ちこみながらさっきの事を思い出す。
「先生、呆れてたなぁ~…」
「いやあれはキョトンとしてたって。あの時の先生の顔思い出したらますます笑える。ははっ…!」
「もう!いい加減にしなよ!」
 半ば呆れながら注意すると雄太君は『わりぃ、わりぃ』と言って笑いを収めた。

 勢いで言ってしまった幼稚園児みたいな帰りの挨拶。あの時の先生の顔が頭から離れない。
 雄太君の言う通りキョトンというか、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。そしてしばらく固まった後、いつもの優しい顔に戻ってこう言ったのだ。
『風見さんは元気いっぱいですね。また明日もその笑顔を見せて下さい。気をつけて帰って下さいね。さようなら。』
 その言葉を聞いた瞬間、自分の頭からボンッと火が出たような気がした。それからはよく覚えていない。気づいたら由美ちゃんにつられ、昇降口にいた。

「はぁ~……」
 今思い出しても顔が熱くなる。私は頬に手を当ててため息をついた。
「そういえば千尋ちゃんの家ってどこ?」
「へ?」
 唐突に由美ちゃんから話しかけられて変な声になってしまった。慌てて由美ちゃんの方を見る。
「え、えっと、もうすぐだよ。ほらそこのコンビニの裏。」
 50~60メートルくらい行った所にコンビニがある。その裏に住宅街があって私の家はそこだ。すると由美ちゃんは嬉しそうな声を上げた。
「じゃあ近いね。私の家はコンビニから右に曲がってすぐの所にあるの。」
「へぇ~知らなかった。意外と近いんだね。」
「そうだ!たまにでいいから一緒に帰らない?」
「え?」
「いつもは亜紀ちゃんと一緒に帰るんだけど、亜紀ちゃん、週に二回塾に通ってるから一緒に帰れない時があるんだ。今日千尋ちゃんと話してみてもっと話したいって思ったの。ダメ?」
『ダメ?』と可愛らしく小首を傾げてみせる。小柄で清楚で桜とはまた違った可愛さがある由美ちゃんに頼まれて頬がニヤけた。可愛い子には目がない私としてはこの頼みを断る選択肢はない。(別に変なアレじゃないけど)
「いいよ。私も由美ちゃんともっと仲良くなりたい。桜とは逆方向だからいつも一人で帰ってたんだ。」
「そうなんだ~。じゃあ決まりね。」
 ああ~由美ちゃんの笑顔癒される……

「おーい、お前ら。俺の存在忘れてない?」
 せっかく癒されてたのに雄太君の声で台無しにされる。私はあからさまに眉を潜ませてみせた。
「あら、いたの?」
「いたの?じゃねぇよ。」
「ごめんなさいね~」
「二人って仲良いんだね。そういえば一年の時もいつも一緒にいたね。」
「え?」
「は?」
 由美ちゃんの発言に私と雄太君、二人の声が重なった。
「な、何言ってんだよ!別に仲良くなんてないし!」
「そうよ!私がいつも一緒にいたのは桜だから。」
「いや、否定する所そこ?」
「アハハ!!」
 由美ちゃんの笑い声がする。私達は顔を見合わせて口をつぐんだ。
「漫才コンビみたいだね。」
「「違うから!」」
「あははは!!」
 夕焼けの沈む街に由美ちゃんの大爆笑する声が響いた……