「あ~!重かったぁ……!」
 図書室の机に段ボールを乗せながら声を上げる。隣にいた由美ちゃんが心配そうな顔で覗き込んできた。
「大丈夫?千尋ちゃん。」
「あ…大丈夫、大丈夫。由美ちゃんこそ疲れてない?」
「私は大丈夫だよ~」
 強がって返事をして逆に由美ちゃんを心配するものの、当の本人は全然平気そうだ。
 やっぱり人は見かけによらない……

 段ボールは先生の言う通りいっぱいあって、先生、雄太君、由美ちゃん、私がそれぞれ一つづつ持って五往復(正確には四往復半?)もした。つまり数は20箱。
 私は由美ちゃんの驚異的な体力に脱力しながら椅子にへたり込んだ。
「風見さん。大丈夫ですか?」
「おいおい、大丈夫かよ。」
 高崎先生と雄太君が若干慌てたように聞いてくる。私は苦笑いを浮かべた。
 それにしても私ってこんなに体力なかったっけ?最近運動不足だもんな~……
 雄太君は確かサッカー部だからこのくらいの運動量平気なんだろうけど、先生まで息一つ乱してないのにはビックリ。
 まぁ先生だって細身だけど高身長だし、物腰柔らかい雰囲気に反して意外と力持ちなのかも。先生っていう立場的に生徒の前で疲れた所は見せられない、という気持ちもあるのかも知れないが。

「皆さん、本当にありがとうございました。助かりました。」
 先生が私達に向かって軽く頭を下げる。私は慌てて椅子から立ち上がった。
「お役に立てて良かったです。」
「図書委員としての仕事をしただけですよ。」
 由美ちゃんと雄太君が笑顔で先生を見た。先生は顔を上げるとホッとした顔で吐息をつく。
「わ、私だってHR委員長として当然の事をしたまでです!」
 何だか遅れをとった気がして焦りながらそう言うと、満面の笑顔の先生が言った。
「ありがとうございました。風見さん。」
 瞬間、今まで感じた事のない喜びの感情が体中を駆け巡った。
「…………」
「じゃあ俺達はこれで帰りますね。先生、さよなら。」
「さようなら。」
 未知の感情に声を失っていると、雄太君と由美ちゃんが先生に帰りの挨拶をしていた。
「はい、さようなら。気をつけて帰って下さいね。」
「はーい。」
 二人が同時に廊下に出ていく。私はそれをボーッと見ていた。
「風見さん?帰らないんですか?」
 先生が不思議そうに聞いてくる。
「え?あ…あの……」
「おい、風見!行くぞ。」
 パッとドアの方を見ると雄太君と由美ちゃんが怪訝な顔でこっちを見ていた。
 私は二人と先生の間を交互に見た後、先生の方を向いて言った。

「先生さようなら!皆さんさようなら!」