「紫乃」



何故か哀に話しかけられた。



なんで私を呼んでいるのか分からずに振り返ると、いつものしかめっ面をした哀がすぐそばに居た。



「何?」



「紫乃の作ったオムライス美味かった。また作って」



頭にぽん、と手を置かれてドキリとする。



少しずつ胸が騒ぎ出した時には、哀の手が離れていっていた。



「ば、ばかっ」



「ははっ」



からかうように笑いながら、キッチンに戻って行った哀の背中を見つめた。



その笑顔をいきなり向けてくるのも、美味しかったって頭を撫でるのも。



不意打ちはやめてよ……。



撫でられた時の感覚を覚えたまま、私は急いで階段を駆け上がった。



バクバクとなる心臓は、階段を思いっきり駆け上がったからなのか、それとも哀にときめいたからなのか。



それはまだ分からなかった。