僕は家でほとんどの家事を受け持っている。
 それはきっと、母親がいないことに関係している。

「ただいまー、今日はシチューか?」
「うん!お兄ちゃんのシチューだよ!」
「そうかそうか。結菜(ゆいな)よかったなぁ」
「うん!」

 小4の妹、結菜。
 彼女が生まれてすぐに僕らの母親は息を引き取った。その頃は分からなかったけれど、後から聞いた話では出産時の事故だったらしい。
 元々体が強くなかった母親。覚悟は出来ていたのかもしれない。当時小学3年生だった僕に、簡単に作れる料理も含めて家事は伝授されていた。

「お兄ちゃん、算数教えて?」

 結菜は典型的な末っ子だった。それを見て甘やかしてしまう男2人。これが僕ら家族の形。

「ご飯食べた後でな。出来たぞ」
「わーい!」

 小4と高3を一緒にするのも考えものだが、結菜の笑顔は数時間前に見た千歳の笑顔に似ている気がした。例えるなら、あれだ。ひまわりのような笑顔というやつ。

 何でも話す家族だけど、千歳のことは黙っていようと思った。

 余命が絡んでくることだから、言おうと思っても言えないが。