「疑似、でいいから恋人になってほしいの」
「えっ...?」
頭の中が真っ白になった。
死ぬまでにやりたいことを綴っているわけだから、少し難しいものや二次元のような話も出てくるだろうとは思っていた。ただ、まさかそんなことを頼まれるとは。
「私、死ぬまでにリア充になってみたかったの」
千歳は1人で語りだす。
彼女は小さな頃から体が弱かったことで思い切り学校に通えた経験も少なければ友達もほぼいない。それに伴って恋愛なんてしたことがないらしい。それでも、生きている間に恋愛は形式だけでも経験してみたいらしく、僕にその役目を頼んだそうだ。今日出逢ったばかりの僕が、そんな大役を引き受けてもいいものなのだろうか。
「病室に男の子が来たの、初めてなんだよね」
「そうなんだ」
「うん。毎年、幼馴染の凪音が来てくれてたんだけど、クラス離れちゃったから」
「へえ」
凪音、というと速水凪音のことだろう。同じクラスになったことはないが、去年の2クラス合同合唱の際に指揮を務めていた女子だ。その人のことは知っている。
「凪音のこと、知っているの?」
「まあな」
ただ、お互いに知っているかはわからないと告げると、少しだけ笑っていた。
「じゃあ、よろしくね。疑似恋人くん」
「え、あ、うん。よろしく...」
思っていなかった形で、僕も青木や香坂のようにリア充になった。