「あのね...」
「うん」
「私、病気であと1年しか生きられないの」
「そう、なんだ...って、えっ?」
雑談に花を咲かせていた頃のカミングアウト。上手く脳で整理できない。
入院しているわけだから病気だろうとは思っていたが、まさかそこまでとは。
正直言って、全然見えない。
「見えないって、思ったでしょ」
「ああ」
「瑛翔くんの口癖、『ああ』っと」
「ㇷッ。それ、どうでもいいだろ」
「えへへ。でね、私の病気はセイルイビョウって言うの」
セイルイビョウ...
聞いたことも無い病気だった。僕の想像力が乏しいせいもあるが、勝手に癌か白血病を想像していた僕はそれにしては健康的すぎると思っていた。だから、そういうのじゃないと知っただけまだ辻褄は合った。
...何を言っているのか、自分でもよくわからなくなるくらい混乱していた。
「星に、涙に、病って書いて星涙病」
「涙が星にでもなるのか?」
「理解が早くて助かる。そう。星の涙が出るんだ」
なんだか、小説のような病気だなとは思った。けれど、それを本人の前では言えなかった。
「でね、その涙が1粒1万円で売れるの。すごくない?」
彼女が、努めて明るくしようとしているのは丸わかりだった。初対面の僕に告げた理由はわからないが、それほどのことを告げてくれたということで僕はある程度信頼されているらしい。
寂しさや辛さを伝えたいのかもしれない。
「涙、売ったことあるのか?」
「うん。でも、病人の涙なんか誰が必要としているんだろうね」
それに関しては僕にもわからない。
星になった涙がどのようなものなのか、気になる気持ちはある。ただ、そんなことを本人の前で言うのは不謹慎な気がした。
「病気のことも、余命のことも、みんなには秘密にしてね」
「わかった」
それからは、また何もなかったかのように話していた。けれど、どんな話をしていても先程の千歳の悲しそうな表情が脳裏をかすめる。誰かに話したりそれで彼女を傷つけたりは絶対しないが、心の中は色々な意味で複雑だった。
「桜、綺麗だな」
「うん。流石、菊と並んだ日本の国花だよね」
話していて分かったが、千歳はとても頭がいい。きっと学校に来ても勉強についていけなくなることはないのだろう。実際、女子で情報科学を専攻する人は少ない。この時代にそういうことを言うのもあれかもしれないが、女子はそういうのをしているイメージがない。