次の日。

「おはよう、瑛翔くん」
「!?」

 僕より早く来るクラスメイト第一号は千歳だった。
 電車で来ている訳では無いからというのも大きいだろうけれど、まさかこんなに早いとは。

「なに?」
「いや、早いなと思っただけ」
「まあ車だからね」

 担任とはもう今日は顔を合わせ済みだということで僕らは適当に雑談をしていた。

「どうして急に学校の許可出たんだ?」
「私もよくわかってないの。この前倒れたばっかりなのに」
「だよな」
「もしかしたら、もう駄目だからかな...」

 千歳の横顔はどこまでも寂しそうでどこまでも辛そうだった。
 そんなことないだろ、と言うことが出来ればいいのに何も言えない。僕には千歳のどれだけをわかっているか、わからないから。

「今日はとにかく楽しまないとね。せっかくの機会なんだし」
「そうだな。今日、和歌あると思うから」
「ほんと!?」
「昨日から古文和歌だからな」
「やったー!」

 和歌が元気づける材料になるなんて面白すぎる。
 そういえば、このクラスで千歳と仲の良い友人はいるのだろうか。
 人気者の千歳。病弱の千歳。友人関係がどこまで広いのかに関しては未知数だと思っている。

「瑛翔くん、このクラスに天城(あまぎ) 初音(はつね)っていてる?」
「天城...?」

 天城と言えばこれまで1度も学校に来ていない女子生徒。
 同じクラスではあるけれど僕は会ったことがなく、顔も知らない。

「いてるけど、1回も見かけたことないなあ」
「うん。そうだと思う。あまり学校に来れないから」
「そうなのか?」
「うん」

 それがただの登校拒否なのかはたまた千歳のような事情があるのか。踏み込んだことまでは聞かないけれど、気になるのは気になってしまう。

「あ、みんな来だしたね」
「うん」

 同世代がこんなにもいる空間にいるのが久しぶりだからなのか千歳の目はきらきらしていた。