僕は千歳のところへ行った時には学校の板書を見せるのが日課になっていた。
 だから、進級してからはノートの取り方が綺麗になったと自覚している。

「この『飛ぶ鳥の』は枕詞ですが、後に来ると想像できるものは何でしょう」

 明日香、だ。
 千歳は和歌や百人一首が好きらしく、病院で暇な時に見つけたものが面白かったと言ってこの前教えてくれたのだ。

【和歌って面白いよね。平安時代に生まれたかったなあ】
【色々と不便そうだけどな】
【そうかな?藤原道長の娘として生まれたら最強じゃない?】
【彰子とか?】
【入れ替わってみたいなあ】

 こんな会話をふと思い出す。
 理系の進学校ではあるが、僕はどちらかと言えば文系だ。だから僕は日本史は得意だけれど千歳は本当にオールマイティなような気がする。

 千歳、今ここにいれば授業が楽しくて仕方ないんだろうな。

「じゃあ、佐藤さん、答えてみて」
「明日香」
「そう。正解」

 これを佐藤明日香に答えさせるとはなんとなく分かっていたし佐藤も何事もなく答えている。
 僕はそういう理由で当てられることはないから安心できる。

 席替えをしても隣になった千歳の席を見る。

 その瞬間にチャイムが鳴り、帰り支度をしている頃に担任が走りながらやって来た。
 何事だろう。

「明日、千歳が学校に来ることになった」

 えっ...

 嬉しさよりも心配が勝ってしまう。
 この前、熱中症で倒れたばかりだと言うのにもう退院できるのか?また、倒れてしまわないのか?