「日向、聞いてる?」
「あー。聞いてないけど」
「なにそれ」

 通学路を香坂と歩いている。青木は流行病に倒れたらしく久しぶりに2人になった。青木の恋人だからという理由だけではなく、もともとそこまで2人きりにはなったことがない。

「稔、最近様子がおかしくて」
「どんな風に?」
「うーん、何となく冷たい気がするんだよね」
「バカップルを抜け出そうとしているだけじゃなくて?」
「は?」
「...すみません」

 凄い目力で睨まれ、委縮してしまう。
 客観的に見たらどうみてもバカップルであっても、当の本人から見たら気付かないものなんだな。

「浮気してないかしら、とか考えてしまうの~」
「急な口調変更やめろよ。絶対青木はそんなことしないだろ」
「日向に女心なんてわかるの?」
「関係ないだろ」

 香坂の変わりように面白くなってからかっていると後ろからすさまじい勢いで背中を叩かれる。

「痛ッ」
「あ、凪音じゃん」
「速水、急になんだよ」

 いつの間に香坂と速水が知り合っていたのか気になるが、それどころではない。叩かれたところが痛すぎる。

「妃翠と日向のセットって珍しいなあって思って」
「去年までは稔と私達とで3人でずっと一緒だったよ」
「そっか。青木は?」
「コロったらしい」

 2人の会話を置いて僕は先に行くことにする。どうせ下駄箱の場所も違うから遠回りになるだけだ。
 背中を叩かれた意味ははぐらかされた気がしたが、良いということにしよう。