僕はその後病室を後にした。

 詳しい話はたとえ看護師であっても伝えず、僕は不安とモヤモヤと悲しみと色々な感情が混ざり正気ではいられなかった。それは数日たった今日でも変わらない。

「瑛翔?」
「少しそっとしておいてくれ」
「わかった...」

 バイト先の友人にも心配される始末。
 今日は体調がすぐれないと言って少し早めに上がらせてもらうことにした。こんな状態で接客など到底無理だ。

✉ 日向、どうしよう...
✉ 私、パニックになって思ってもないこと言っちゃった...

 速水からそんなメッセージが届く。
 慰めるだけ慰めて僕は返信するのをやめた。これはきっと、2人で解決したほうがいいから。第三者の僕が間に割って入るものではない。

 この前行く予定だったプラネタリウム。
 帰る気にもならなかった僕はそこまで散歩してみることにした。前とはルートが違うが、バイト先からは歩いていけなくもない。いつもの帰り道とは反対方向へ足を進める。

 黄昏時を知らせるカラスの鳴き声があちこちで響き渡り、空も少しずつ藍色に染まっていく。

「こんなところに公園なんかあったけな...」

 10分程度歩くと、見覚えのない小さな公園に辿り着く。プラネタリウムまではまだ10分程度かかるが、散歩しているだけではあるためこの辺りでいいかと公園の中に入ってみる。

 誰もいないこの公園は花が咲き誇っている。
 見たことのない花もあり、僕はスマホのアプリを起動して気になった植物を調べてみる。なのに、複数の花はアプリでも該当するものが見つからなかった。アプリにもわからないほどの花を見つけたという喜びは僕を刺激させる。

 最後の1つを読み込んでみると、勿忘草と出る。
 勿忘草、か...
 聞いたことはあったが、こんなに可憐な花だったとは知らなかった。

『私のことを忘れないで』

 この花言葉にこの前のことを重ねると自然と泪が零れていた。